中小企業を経営する皆さんは、日々様々な課題を前に奮闘していることと思います。課題は一つだけではなく常に目の前には複数の課題があったり、一つ解決すればまた新たな課題がのしかかったりする日々ではないでしょうか。この記事では、中小企業が抱える課題や克服方法について解説します。
中小企業における主な課題
日本という国は、中小企業によって支えられていると言っても過言ではありません。日本における企業のうち中小企業が占める割合は非常に大きく、労働者のうち中小企業で働く人が最も多いからです。つまり、日本を支える中小企業の課題を改善することは、日本のさらなる発展にもつながります。
時代は変わり、景気は悪化の一途をたどり、さらに少子高齢化が進み、中小企業が利益を増やすのは難しい時代です。そして、ワークライフバランスが叫ばれたり、各種のハラスメントが問題視されたりしていることで労働環境は変化しています。それはもちろんよいことですが、以前のような過度な労働は敬遠されるようにもなり、思うように業務が進まないという企業もあるでしょう。
そんな現代社会において、中小企業が抱えている課題とはなんでしょうか。
働き方改革への対応
2019年から『働き方改革関連法』が順次施行され、2020年4月には『時間外労働の上限規制』が始まりました。この問題に対応するためには、労働力不足を補わなければなりません。具体的には、定年で退職した従業員を再雇用する、女性の社会進出を後押しするなどの方法が挙げられます。
また、正規雇用者と非正規雇用者における待遇の格差を解消し、非正規雇用者の労働意欲を高めることも有効でしょう。一方、非正規雇用者にとってはプラスになりますが、企業にとっては非正規雇用者の人件費や残業の増加や有給休暇の取得義務などによってコストがかかったり、さらなる人手不足を生んだりするデメリットが生じる可能性もあります。
労働生産性の向上
労働に対し、どの程度生産できるかを指標化したものが『労働生産性』です。大企業であれば、ITを導入することなどにより労働生産性の向上を実現できますが、多くの中小企業では難しい問題であるでしょう。
しかし、一人ひとりの従業員の生産性が向上すれば、当然企業の生産性は大きく上昇します。労働の効率化を工夫し、生産性を上げる工夫が必要です。
人材や人手不足の解消
人手不足に悩んでいる中小企業は多いのではないでしょうか。先述した少子高齢化の影響などにより、求人を出しても希望者がなかなか集まりにくい状況になっています。
退職者を再雇用する、子育て支援策を打ち出すなど、アウトソーシングを活用する、ITや機械化による業務の効率化などが求められるでしょう。
後継者不足
後継者の問題も、少子高齢化による影響は大きいはずです。どんな経営者でも高齢などにより、いずれは経営者の座を譲らなければならないときがきます。そのときに、身内や社内に適切な後継者がいればよいですが、そうではない場合廃業に追い込まれる企業もあります。
原因の1つに、借入金に対しての個人保証問題や、家族経営による企業の体質があり、後継者が集まりにくいことが挙げられます。
日本経済の中心を担う中小企業だからこそ、廃業や事業規模の縮小を避けることが日本経済の衰退を防ぎ要因になるので、大きな課題と言えます。
時代の変化への対応
時代の変化とともに様々な規制緩和が行なわれたことや、ITなどによる各種技術が発展したことなどにより、新規事業に参入することに対するハードルは下がりました。新規に参入した企業が従来のビジネスモデルを取っ払い、新しい方法論での成功例も多くあります。
たとえば『メルカリ』などの『シェアリングエコノミー』の利用者が増え、サービスや商品、場所などが簡単に共有や交換できるようになったことも成功例の1つです。
近年は、新型コロナウイルスの影響で、飲食業はテイクアウトやデリバリーなどの需要が増加し、素早く柔軟に対応できた企業が生き残ったり発展を遂げたりしている例も多くあります。
時代の変化が速くなった分、臨機応変に素早く対応していく力が求められています。
中小企業における課題克服法
中小企業における主な課題を挙げました。思い当たる課題はあったでしょうか?
ここからは、課題を苦服する方法や改善策について具体的に解説します。
固定費を削減する
家賃など、売上や業績にかかわらず一定で生じるコストを削減できれば、その分を他の費用に回すことが可能になります。
たとえば家賃は、たとえ新型コロナウイルスの影響で休業したり売り上げが減ったりしたとしても、支払わなければなりません。テレワークやリモートワークが増えたことにより、オフィスを解約したり手狭なところに引っ越したりする企業も増えていますが、場合によってはそのような対処ももちろん必要です。
正規雇用者が担当していた業務を非正規雇用者の担当に変更することで、人件費の削減につながる例もあります。
固定費の削減は簡単ではありませんが、工夫次第でももちろん可能です。今一度、見直す価値は十分にあります。
業務の効率化
業務を効率化し、労働生産性を高めるために最も有効な方法はITの導入です。しかし、コストがかかりますので、前述したとおり中小企業は大企業のようにはITの導入は簡単ではないでしょう。
ITの導入は慎重に検討しながら行なう必要がありますが、長期的な収益の確保や時代の変化への対応のためにも必須とも言えます。専門家に相談するなど、各企業で前向きな検討をしてください。
M&A
企業の合併と買収を意味する『M&A』。経営が難しい局面に出くわしたとき、廃業や破産をせずにM&Aという方法を選択することで問題解決に向かうことは多く、2000年頃から多くの企業で行なわれている手法です。
中小企業にとっては、経営危機に陥った場合自力で問題を解決することは困難です。弁護士や公認会計士、専門業者などの専門家の力を借りて、自社を売却したり他社を買収したりすることで経営の安定化や資金調達が可能になることも多くあります。
社長依存組織の問題
その他の課題として挙げられるのが、社長依存組織の問題です。
中小企業の中には、社長依存の体質に陥っているところが多くあります。社長自身が意図したわけではないのに、気付くと自然に社長依存の体質になっていたという企業も多くあります。
社長依存の組織の特徴は、社員自らが考えたり判断したりして行動することができず、すべて社長に依存してしまうということです。
社長依存の組織では、社長がいなければ判断や決定ができず、業務が回らなくなり、現場が崩壊してしまうという危険性があります。
また、社長依存の組織では、必然的に社長自らが現場に介入しなければならなくなり、本来の社長の仕事が疎かになり、経営上の危機に陥る可能性もあります。
社長依存組織の主なリスクは、以下の4つがあります。
1. 現場で問題解決ができない
熱心な社長ほど、自ら現場に入って指揮を執ることがあります。現場を知らない社長も困りますが、社長が現場に入りすぎることで、現場の社員自らが考え判断することをしなくなり、なんでも社長に頼ってしまう状態になってしまいます。
2. 顧客からの信頼低下
社長依存の組織になると、顧客ファーストではなく社長ファーストの判断になり、信頼を失うケースがあります。目の前の顧客に向き合うよりも、社長の判断や顔色を気にしてしまい、顧客が求めるものや必要としているものが見えなくなってしまうことにつながります。
3. 後継者が育たない
社長の意思決定は当然重要なものですが、社長だけしかわからない、見えないというものや状況が増えれば増えるだけ、社長のワンマン経営に陥り、社長の下の管理職が育ちにくくなります。社長に続く後継者としての成長が見込めなくなったり、管理職の不満につながったりし、早期退職や転職などの事態を引き起こす可能性も高くなります。
4. 社長がいないと事業の運営ができない
社長のみに責任や負担が集中し、社長が不在など業務が回らず、現場の混乱や崩壊を招きます。社長一人の負担も増える一方です。
社長依存組織からの脱却法
以上のリスクを避け、社長依存の組織から脱却する方法には、以下の4つがあります。
1. 経営情報や意思決定の内容を社内で共有する
経営上の情報や意思決定が必要な内容を、社長だけで収めるのではなく管理職や社員にも共有していくことが大切です。内容によっては、管理職だけでとどめなくてはならないものと社員全員に知らせるべきもの、担当部署だけでよい情報など様々です。
特に、経営に対する理念やビジョン、経営計画などは社長から一方的に数値のみを伝えたり訓示したりするような形ではなく、社長自らの思いを丁寧に伝えましょう。思いが伝わることで、部下も共感し、社長のために働こうという意欲が増します。
2. 社長の権限移譲を進める
後継者のことや社長自身の負担軽減も踏まえ、社長にしかできない仕事や社長がやるべき仕事を除き、移譲できる仕事を少しずつ役割や担当を決めて引き継いでいくこともよいでしょう。
その際は、業務ごとに求める成果や権限、責任、判断基準といったものを明確にすることが大切です。そして、人事評価制度にも反映させながら、基軸として取り組んでいく姿勢が求められます。具体的な且つ明確にしておくことや、認識の相違がないよう丁寧に理解を得ていく姿勢も意識しましょう。
3. 社員自ら学習し、意思決定基準を身につける
権限を委譲してすぐに社員の行動や考え方が変わるわけではありません。そこから一人ひとりが何を学び、どう考え取り組むのかが大切です。社員の負担が増えるだけでは、仕事に対する意欲も失くしかねません。
企業全体で、研修や面談など社員が自身の仕事を振り返り、学習し成長できるための仕組みを作り、機能させることで社員の成長、ひいては企業の発展につながっていきます。
4. 社長自身も、定期的に自身の意識や行動を振り返る
従来のやり方を変え、新しいことに取り組むときはすべてうまくいくとは限りません。最初は上手くいかないことの方が多い場合もあります。
社長自身も。これでよかったのか不安を感じたり社員の仕事ぶりをもどかしく感じたりすることもあるでしょう。すぐには結果が出ないため我慢が必要なこともあるでしょう。よくないことは、即刻方向転換が必要な事案もあります。
社員が学んで成長するように、社長自身も謙虚に自らを振り返り、自分自身と記号の成長発達のための取り組みを真摯に行なうことは大切なことです。
まとめ
中小企業が抱える一般的な課題として、『働き方改革への対応』『労働生産性の向上』『人材や人手不足の解消』『後継者不足』『時代の変化への対応』を挙げました。
そして、それらの課題の改善策として『固定費の削減』『業務の効率化』『M&A』について解説しました。企業によっては、ここで挙げた課題はすべてクリアし、別の課題を抱えている会社もあるかもしれませんが、ここで挙げた改善策を応用して活用できるものもあるかもしれません。是非参考にしてください。
また、後半は社長依存組織の問題について詳しく解説しました。中小企業が陥りやすい状況であり、その状況に気付きながらも社長と社員双方にとって声を挙げにくい課題とも言えます。心当たりの点があれば、早急に改善を目指し、風通しがよく働きやすい職場作りを目指しましょう。
それが企業の発展や労働力の向上に、必ずつながるはずです。