日本の企業の中で99%を超える割合を占める中小企業は、日本経済を支えていると言っても過言ではないでしょう。しかし、各企業とも目の前の課題と向きながら懸命に、業務に取り組んでいることと思います。日本の中小企業の未来はどうなるのか? 果たして明るい未来はやって来るのか? 今後の方向性に迷っていたり、未来を憂いていたりする経営者の皆さんに向けて解説します。
中小企業の厳しい現状
多くの中小企業はさまざまな問題を抱え、厳しい現実と向き合っています。IT関連や、半導体、EVなどの成長産業、そしてコロナ禍で需要があった業種や業態転換を試みて成功した会社などは比較的好調の波に乗れているかもしれません。
しかし、現在は飛びぬけて伸びていると言える業界は少なく、どの業界も必死に戦略を立て、頑張っていることと思います。しかし、これまで以上にコストの増加は避けられません。まずは人件費ですが、最低賃金が毎年上がり続けているように、今後優秀な人材を確保するためには人件費がたくさん必要になります。
次に仕入れコストです。中国が食料輸入大国に転じ、食材の価格が上昇し、値上げが相次いでいます。今後も世界の人口増加や途上国の経済の発展などの影響で、資材や資源の価格が上昇し続けていくことが予想されます。さらに、物流面でもエネルギーコストが上がり続けています。
価格高騰は需給バランスが崩れ、労働市場では人材供給不足、資材市場では必要な材料不足に陥り、業務自体が滞る事態も考えられる状況になります。このような厳しい現状で、中小企業は今、何をすべきなのでしょうか? 明るい未来はやってくるのでしょうか?
中小企業の厳しい現状として、企業数が減少しているという現実もあります。倒産している企業数は減少傾向にあるのですが、経営者の高齢化や、それに伴う後継者の不在により休廃業や解散する企業が増加しているのです。また、環境配慮や働き方改革への対応など、時代に対するさまざまな変化に対する対応とその負担も大きな課題であると言えます。
自社の強みを知る
これらの課題は急に起こったことではなく、長い歳月の間に少しずつ積み重なり、現状につながってきたものです。現在は、自社の事業を再構築すべきときに来ていると言えます。そのために、まずは自社の未来をできるだけ正しく把握することが必要です。つまり、現状のまま日々を過ごしたとしたら、どんな未来が待ち受けているのかということを考えることが必要です。
業界や取引先の動向や売上、経費や人件費などのコスト面、あらゆるデータに基づき、未来の自社の姿を予測します。具体的に、現状のまま自社がどのような未来を迎えるのか予測することで、現在何をすべきか、今後に向けてどのような対策が必要になるのかということが少しずつ見えてくるはずです。
会社の未来に向けて企業変革が必要になった場合、まずは自社の強みがなんであるか明確にしましょう。商品力・スキル・スピード・チームワークなど、各企業に必ず強みがあるはずです。自社の強みがわかれば、その強みをさらに伸ばしていくためにはどうしたらよいのかを考えます。そして、強みがわかれば、反対に弱みも見えてきます。弱みを克服するためには何が必要なのかということも考えましょう。
今後の戦略を立てる際には、経営コンサルタントなど外部の力を借りることも有効です。特に、今まで特に戦略を立てず、長年の慣習のままに経営してきたというような企業にとっては、自分達だけの力では限界があります。外部に相談することをおすすめします。
戦略とは、企業や事業の目的を達成するための手段やプロセスです。まずは自社の課題を洗い出し、その課題解決に向けた具体的な目標を立てます。そして、その目標達成のためにはどのような手段やプロセスを踏む必要があるのかということを明確に示すものが戦略です。目標と戦略は混同しがちですが、目標はゴール、戦略はプロセスと考えるとわかりやすいでしょう。双方がフィードバックしながら修正していくことも必要です。
人材を活かす
人材確保に苦労している企業は多いことでしょう。よい人材を確保することは、ますます厳しくなってきています。しかし、現代ならではの人材の活用方法があります。新型コロナウイルスの影響で、苦境に陥った企業は多いですが、逆にコロナ禍により多様な働き方が実現したり、生み出されたりしています。
たとえば、優秀な人材が副業として中小企業を支援する、独立しフリーランサーとしてさまざまな企業の仕事を請け負う、プロフェッショナル名人材を顧問として招き入れるなど、企業にとって有益なさまざまな働き方や雇用の仕方が増えています。優秀な人材を正社員として採用することが難しくても、このような人材活用であれば身近に人材がいるかもしれません。
未来に向けた対策
企業により課題はさまざまだと思いますが、ここでは一般的な意味でこれからの中小企業に求められる対策の例をご紹介します。
労働環境改善
会社の存続や生産性の向上のためには、よりよい人材確保が必要です。そのためにも労働環境の改善は必須の課題です。福利厚生を見直し充実させる、組織の風通しを良くする、リモートワークやフレックス制を導入するなど多様な働き方の実現など、各企業において社員のニーズに対応する方法を考えましょう。
ITの活用
現代のビジネスにおいて、デジタルの導入や活用、変革も非常に重要です。業種によって活用方法は異なりますが、自社の業務にどのようなデジタル技術や設備が必要なのか検討しましょう。もちろんコストもかかりますし、デジタルを導入しても扱えるスキルを持った人材も必要です。ITの導入においてはさらに課題が生まれますが、企業により上手に活用できる方法を探ってみてください。
事業の継承
後継者の不在により、事業の継続が難しい企業が増えています。事業の継続や継承を行なうためには、外部の人材を経営者として迎え入れる方法もあります。また、競合他社や大企業に売却する“M&A”という方法もあります。自己資本で経営を継続することが困難な場合は、検討する価値はあります。M&Aにより、これまでとは異なる分野に進出する“第二創業”という道が開けるケースもあります。
CSR調達
“CSR(Corporate Social Responsibility)”とは、企業が社会に対してよい影響を与えるよう、責任を負うべきだという考え方です。“CSR調達”は、自社だけではなく、取引先との関係性や調達業務に適用することで、相手企業に対しても自社のCSR規範に準じることを求めるものです。CSR調達の一種には、製品の原材料や部材に対し、環境負荷の低い製品を選択し、規制化学物質の削減、二酸化炭素の排出量の抑制、再生資源の使用などを実行する“グリーン調達”という方法もあります。
健全な経営
生産性向上のためにITを導入するためのコストや運転資金のための資金繰りなどに対し、健全なキャッシュフローによる経営のために、“フィンテック”を活用したスピーディーな融資を検討しましょう。“フィンテック(Fintech)”とは、“金融(ファイナンス Finance)”と“技術(テクノロジー Technology)”を組み合わせた造語で、金融とICT(情報技術)を組み合わせた新しいサービスや金融商品、それらを提供する企業を総称する概念です。フィンテックは、従来の信用金庫や地方銀行からの融資や個人経営者の資産からの捻出ではなく、売掛金である入金待ちの請求書を介し資金調達を行なう“ファクタリング”などの新しい調達経路が生まれています。また、不動産を所有しているようであれば、“CRE戦略”も有効です。CRE戦略とは、企業は所有する不動産、つまりCRE(コーポレート不動産)を、経営戦略のための資産と見なし、最大限に活用して不動産投資を行なうという考え方です。不動産を所有し続けることはリスク資産となる危険性もありますが、上手く運用することで利益を最大化させることができれば、キャッシュフローの改善やリスクの低減につながります。
将来性のある会社の特徴
ここからは少し視点を変えて、働く社員にとって魅力的な、将来性のある企業の特徴について解説します。働く社員にとって、会社に将来性があると感じられれば安心感やゆとりが生まれ仕事に対するモチベーションが上がります。もちろん、優秀な人材の確保にもつながります。
資本力がある
資本力は、“純利益・売上高”“株式の相場や株主の保有率”“国からの補助金や助成金”“関連会社や子会社の数”が基準となります。東証一部上場企業は、この要素を満たしているので、安定性や将来性が高いとされています。いかに資本力が重要かということがわかります。
将来のビジョンがある
将来のビジョンがしっかりあるかどうかということもポイントです。会社の経営とは、数年先までの事業計画や目標があり、それらに沿って方針を決めます。安定した経営を続けている企業ほど、プロジェクトの立案や人材の育成に力を入れ、将来をしっかりと見据えた経営や事業の展開を行なっています。将来にビジョンがなければ、行き当たりばったりの経営になり、方針が定まらず業績の悪化を招いたり、思い付きや無計画な事業投資を行ない赤字に陥ったりする危険性が高くなります。
社員を大切にする
経営者が現場目線を忘れず、社員を大切にしている会社も将来性が高い会社と言えます。現場を知らない経営者や、大きくなりすぎた会社では現場の現状や苦労を理解できず、現場とかけ離れた組織の運営が進み、社員の心は離れて行ってしまいます。会社にとって、社員は非常に大切な存在です。当たり前ですが、社員がいなければ会社の経営や業務は成り立ちません。働き方が多様化しても、その事実は変わりません。社員教育の面からも、将来を見据え、社員を大切に育てていく姿勢が必要です。
事業拡大を怠らない
会社を守るため、常に事業や販路の拡大を行なっている会社は将来性が高い会社です。事業や販路の拡大は、会社の成長にとって必須の努力であるからです。会社の主な収入源である取引先が理不尽な要求をしてきた場合、断ることは死活問題です。したがって、多くの会社と取引をして、販路を確保することが大切なのです。また、国からの助成金のみで成り立っている会社だとしたら、助成金が出なくなれば立ち行かなくなってしまいます。余裕のあるうちに、その他の収入源を確保しておかなければなりません。事業や販路の拡大は、単に業績を上げるためだけではなく、将来のために必要であり、重要な責務です。
仕事を安請け合いしない
仕事の受注や発注には、需要と供給のバランスが大切です。競争の激しい業種や他の会社と業務内容が差別化できていない会社は、仕事を選ぶことができず、安請け合いせざるを得なくなります。また、安さを売りにしている会社は、売上の単価を下げて大量の商品を売って利益を得ているので、単価を挙げない限りデフレ構造から抜け出せなくなってしまいます。反対に、AIは人手不足で、まだ導入している企業が多くないため、仕事を受ける相手を選ぶことが可能な状態です。つまり、よい条件で高額の報酬を支払ってくれる取引先と仕事をすることが大切だということです。
まとめ
多くの中小企業にとって、厳しい時代を迎えています。将来も決して安泰とは言えない企業が多いでしょう。しかし、ピンチをチャンスに変えることは不可能ではありません。自社の現状を見つめ直し、将来のビジョンを立てることで、明るい未来を呼び込むことはできるはずです。
今回の記事の内容を参考にしていただき、1つでも実践することで、あなたの会社にとって明るい未来が訪れることを願っています。