時代の移り変わりとともに、中小企業が取り組むべきビジネスや課題も変化します。しかし、時代が変わっても中小企業の経営者が抱える悩みは共通しています。また、会社を経営するには苦労や悩みが尽きないのは当然です。今回は中小企業の経営者の多くが抱えている悩みの中から、代表的な4つの悩みについての解決策や取り組むべき内容について解説します。
中小企業の経営者は、なぜ悩みを抱えるのか
中小企業の経営は、社長の決断力や判断力が大きな鍵を握ります。判断を誤ったり決断の時期を逃したりすることで大きな痛手を背負うこともあれば、正しい判断や決断によって会社の業績が上がることもあります。経営者の皆さんなら、実感していることだと思います。つまり、会社の業績は経営者の能力に比例していると言っても過言ではありません。もちろん社長一人で経営しているわけではありませんが、あらゆる局面で判断や決断を迫られる経営者には責任があります。しかし、完璧な経営者などいません。判断を迷ったり、間違えたりすることもあるからこそ、悩みも大きくなるわけです。
多くの経営者が抱えている4つの代表的な悩みは以下のとおりです。
1. 売上に関する悩み
2. コスト削減に関する悩み
3. 資金調達についての悩み
4. 人材に関する悩み
4つとも、どの会社にも当てはまる課題であり、経営者が抱えている悩みだと思います。以上の4つの悩みについて、1つずつ解説していきます。
売上に関する悩み
どうすれば売上を伸ばせるか、ということは中小企業が共通して抱えている課題です。どんなによい製品やサービスの提供をしていたとしても、景気や経済の情勢により売上に影響を受けることは避けられません。多くの経営者が、「どうしたら売上を伸ばせるのか」という悩みを抱えています。悩みを解消するために銀行などの金融機関が主催する商談会に参加してみたり、会計士や税理士に相談してみたりしても、なかなか解決に向かわないという経験をしている方もいると思います。しかし、売上に関する悩みを解決するヒントは、至ってシンプルです。「売上を伸ばすという考えを捨てる」ということです。
多くの経営者は売上を伸ばすことに視点を置き、創意工夫をしていると思います。そして、売上を伸ばさなければ会社の存続が厳しくなると思い込んでいる経営者が多くいますが、伸ばさなくてはならないのは売上ではなく利益です。大きな売上を上げたとしても、利益が伸びなければ会社の経営は安定しません。つまり、利益がなければ売上は増えないのです。利益を拡大するための方法はたくさんあるので、経営者の思考を売上拡大から利益拡大へと切り替えることがポイントです。思考を切り替えることで、経営者の行動に対する選択肢は俄然広がります。
利益拡大のための方法としては、「生産性の改善」「人員の効率化」「コストのカット」「粗利改善」「不採算事業からの撤退」「不採算商品やサービスの終了」などが挙げられます。利益拡大のための対策を講じ、その効果が上がっていけば利益の増加につながり会社にはゆとりが生まれます。利益拡大を進めながら経営していけば競争力や収益性を高める会社の強みに磨きがかかり、売上拡大に対する悩みも消えていきます。
コスト削減に関する悩み
中小企業もよって、コスト削減は会社の生産性を高める上で重要な活動です。さらに、コスト削減は会社の生産性とともに事業の収益性も高めるので、市場において優位性や競争力が優位になる利点もあります。しかし、思うようにコストが削減できずに悩んでいる経営者も多くいます。コスト削減に対する主な悩みとしては、「どこから手を付けてよいのかわからない」「コスト削減が原因による売上低下が怖い」「コスト削減による顧客離れが怖い」などがあります。コストカットをしたせいで生産性の維持や向上ができなくなってしまっては意味がありません。
解決策としては、コストを集計し、コストの実態について詳細に分析することです。現状のコスト構造を把握し、実態を詳しく分析した上でコストを削減する必要があるかどうか見極めます。ポイントとしては、「なぜコストが増えているのか?」「コストは事業活動に貢献しているか?」「どんなコストがかかっているのか?」などの実態を分析していきます。現状を把握し、削減の余地があるかどうかを見極めるのです。現状の分析を怠り、認識を誤ったままコスト削減をやみくもに進めてしまうと、衰退するリスクを生み出し、業績が傾いてしまう事態になりかねません。さらに、その状態が続けば修復することは困難になる一方です。コストを集計し、実態把握ができれば削減のポイントが明確になり、コスト削減に対する悩みは自然と解消されるでしょう。
資金調達についての悩み
資金がなければ事業を継続することはできません。運転資金の調達に頭を悩ませている中小企業の経営者は少なくないでしょう。資金には事業活動の継続に必要なものだけではなく、「人材育成」「成長投資」「設備投資」「既存設備の保守修繕費用」など様々です。会社の収益が潤沢であれば自社で資金の調達ができますが、多くの中小企業は収益に余裕がないので、資金調達の手段が限られています。解決策としては「現金の回収を急ぎ、会社の利益を拡大すること」です。
運転資金の調達に悩んでいるということは、日常的に資金繰りに支障をきたしている状態だと思います。なぜ資金繰りに支障があるのかと言えば、売掛金や支払手形など売上債権等の現金化に時間がかかることが原因の1つです。黒字経営にもかかわらず資金繰りに苦労している会社があるのは、売上債権の回収機関が長期化している傾向にあるからです。売上債権を2か月から1か月に短縮することができれば、1ヶ月分の売上債権が現金として使えるようになります。現金の回収を急ぐだけで、資金繰りの改善につながるということです。
現金収支を最優先することを「キャッシュフロー経営」と言います。キャッシュフロー経営は、資金繰りの改善のみならず、投資効率や利益水準の改善にもつながります。資金繰りが改善したら会社の利益を拡大することが重要で、良好な資金繰りを維持するためには利益拡大の推進が欠かせません。利益が現金の源泉になることは前項で述べたとおりです。資金繰りの改善とともに利益が拡大できれば、金融機関からの資金調達が容易になり、資金繰りの悩みは解消されるはずです。
人材に関する悩み
従業員の採用や人材育成に対する悩みも、多くの経営者が抱えています。少子高齢化に伴い、労働人口の減少は深刻になってきています。政府は「人生100年時代」構想で、働き方改革の実現を目指し、女性の就労や高齢者雇用の促進を推進しています。しかし、経営者にとっては人手不足が深刻化しており、労働力が確保できなければ企業の採算力低下は免れません。また、AIなど新しい技術に対応できる人材確保や育成も課題に挙げられます。今回は人材の育成にスポットを当てて解説します。
人材を育成するために、まず指導者となる人材の不足が課題となっている企業が多いのではないでしょうか。優秀な指導者がいたとしても研修時間の確保が難しく、ノウハウを伝えスキルアップにつなげるのは一朝一夕できる簡単なことではありません。多くの企業でマニュアルを作成していると思いますが、文字のマニュアルだけで全てを伝えるのは困難です。解決策としては、研修動画を作成することです。動画作成にもコストや時間は必要ですが、一度作成してしまえば繰り返し使用することができるので便利です。
人材育成は、もちろん研修やアニュアルだけに頼るのではなく、日常の業務の中で直属の上司や先輩が指導をするはずです。その際に、直属の上司や部下だけに指導を任せるのではなく、教育体制を整えることが大切です。上司から的確なフィードバックや評価ができるよう、教育体制を整えることで、従業員のモチベーションにつながります。
人材育成に取り組む際には、次の4つのポイントを意識するとよいでしょう。
1. 育成するテーマを明確にする
人材育成の方針として、半年後、または1年後などの期限を決め、それまでにどの程度のスキルを身に付け、何を目指していくのかと言った目標を具体的に立てます。従業員自らが成長しなければならないことを自覚し、明確な目標を持つことで実現のための努力が可能となります。その目標を上司と共有し、管理していくことが重要です。目標の設定に当たっては、会社の目標に結び付けることも必要ですが、個々の能力や性質を踏まえたものにするとよいでしょう。
2. 従業員が納得できる評価制度を設ける
人材育成は業務を覚えることだけがゴールではありません。仕事に対するやりがいや価値を感じてもらうことが大切です。そのために年功序列ではなく、個々の行動やスキルを踏まえた上で明確な評価基準を設け、判断できるような制度を構築しましょう。適正に評価されていることを従業員が実感できれば、モチベーションにつながり、スキルの向上につながります。
3. 管理職に部下とのコミュニケーション方法を教育する
従業員が成長するためには、上司とのコミュニケーションが欠かせません。感情的に接したり、明確な指示や改善策を指示しなかったりするようでは個々の成長は期待できません。個々の考え方を理解し、明確な指示やコミュニケーションにより従業員は自ら考え、改善していく力も養われていきます。そのためにも上司のコミュニケーション能力は大切です。外部研修などを活用し、上司がコミュニケーション能力を学ぶ機会を設けましょう。
4. 課題に対して適切なフィードバックを行う
課題を与えても、その課題がクリアできたときにさらに効率的な方法や改善策が生まれることがあります。せっかくのその機会を無駄にしないよう、毎週・隔週・毎月など期日を決めて丁寧にフィードバックを行うことで、従業員の成長や生産性の向上につながります。決して欠点探しではなく、褒めるべきところは褒めたり、改善すべき点は分かりやすくアドバイスしたりする体制も整えていくことが求められます。
せっかく人材を確保し、育成しても、退職してしまえばまた振り出しに逆戻りになってしまいます。人材の流出を防ぐために福利厚生の充実や従業員がやりがいを感じて働ける職場作りに取り組むことも大切です。
まとめ
中小企業の経営者が主に抱える4つの悩みについて解説してきました。納得できる点はあったでしょうか。どれも順調に経営を行っていくために欠かせない悩みであり課題です。自社にとって、最終戦すべき課題は何か見極め、取り掛かれるところ、改善できそうな点から着手し、それぞれの企業が発展していくことを願っています。