驚くべき速さで時代は進化し、インターネットやスマートフォンが当たり前になった現在。さまざまな面でグローバル化が進み、20年前、30年前には想像もできなかったような豊かな時代になりました。その反面、地球温暖化をはじめとする環境問題や貧困などの格差の拡大、ジェンダーの問題など多くの社会問題を抱えています。
そんな現代社会だからこそ、企業にとって“ソーシャルビジネス”に取り組むことは大切です。ソーシャルビジネスとは、あらゆる社会問題を解決することを目的とした事業のことです。企業は自分達の事業を行ない、利益を上げ続けることで社会的な支援や社会貢献、地域活性化などに取り組むことが求められています。
この記事では、中小企業として取り組むべきソーシャルビジネスにスポットを当てて、詳しく解説いたします。
ソーシャルビジネスとは
ソーシャルビジネスとは、“寄付金などの外囲部資金のみに頼らず、あらゆる社会問題や課題を解決することを目的とした事業”です。『政府広報オンライン“ソーシャルビジネス”を支援。社会的課題の解決にビジネスの手法で取り組む方を後押し』 「ソーシャルビジネス」を支援 社会的課題の解決にビジネスの手法で取り組む方を後押し | 暮らしに役立つ情報 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp) では、ソーシャルビジネスについて、『経済産業省“ソーシャルビジネス研究会報告書“』を参考に、以下の3つの定義でまとめています。
1. 社会性
現在解決が求められる社会的課題(環境問題・貧困問題・小志向絵・介護福祉・子育て支援など)に取り組むことを事業活動のミッションにすること。
2. 事業性
1のようなミッションにビジネスの手法で取り組み、継続的に事業活動を進めていくこと。
3. 革新性
新しい社会的商品・サービスやそれを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。
つまり、社会問題の解決のために、ビジネスの力で取り組む事業がソーシャルビジネスです。
また、ソーシャルビジネスは、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス博士が提唱しました。ユヌス博士は、提唱しただけではなく、自らビジネスマンとして実践もしています。彼はソーシャルビジネスを以下の7つの原則で定義しています。
1. ソーシャルビジネスの目的は、利益の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、環境等の社会問題を解決すること。
2. 経済的な持続可能性を実現すること。
3. 投資家は、投資額までは回収し、それを上回る配当は受けないこと。
4. 投資の元本回収以降に生じた利益は、社員の福利厚生の充実やさらなるソーシャル・ビジネス、自社に再投資されること。
5. ジェンダーと環境に配慮すること。
6. 雇用する社員にとってよい労働環境を保つこと。
7. 楽しみながら。
引用:ユヌス・ジャパン“ユヌス・ソーシャル・ビジネスとは ユヌス・ソーシャル・ビジネスとは – ユヌス・ジャパン (yunusjapan.jp)
ソーシャルビジネスの特徴
一般的な意味でのビジネスとソーシャルビジネスとの大きな違いは、事業の目的です。一般的なビジネスは利益の追求が大きな目的ですが、ソーシャルビジネスは社会問題の解決が1番の目的です。とは言え、企業でビジネスとして行なう以上ボランティアとは違います。ボランティアは、寄付など外部からの資金が主な財源になるため、資金不足になれば活動を継続することはできませんが、ソーシャルビジネスは企業として事業を展開する中で資金を得るので、寄付や政府からの助成など外部からの財源に頼ることはありません。
現在、ソーシャルビジネスに注目が集まっている背景には、次の2つの理由が考えらえます。
1. SDGsの広がり
SDG(Sustainable Development Goals)とは、“持続可能は開発目標”です。持続可能で、よりよい世界の実現を目指して、2015年の国連サミットで採択され、日本でもかなり浸透してきています。SDGsは17のゴールと169のターゲットで構成されており、発展途上国に限らず先進国でも積極的に取り組むべき普遍的な目標です。
SDGsの広がりにより、持続可能は社会を実現するためのソーシャルビジネスの必要性が高まっているのはご存知だと思います。
2. BOP層
BOP層(Base of the Economic Pyramid)と呼ばれる低所得者層は、今や世界人口の約70%を占めており、2050年までには85%に達すると予想されています。先進国の経済成長はペースダウンしていますが、発展途上国は今後ますます経済成長を遂げることが期待されています。BDP層が、途上国の経済成長において中心を担うと期待されています。しかし、BDP層は経済力がないため、貧困問題の解決が急務です。
以上の2つの理由から、ソーシャルビジネスが必要とされているのです。
ソーシャルビジネスの事例
実際にソーシャルビジネスに取り組んでいる企業は増えています。ソーシャルビジネスは、貧困問題の解決・高齢者介護・子育て支援・障がい者の就労支援・町づくりや観光・商店街の空き家や空き店舗の対策・被災地の復興・女性の活躍の推進・自然や環境の保護・発展途上国の支援・過疎地域の活性化・地域への貢献など多種多様の取り組みがあります。その中から、主な事例をご紹介します。
貧困問題の解決
貧困層へ無担保で小口の融資を行なう“マイクロクレジット”という取り組みがあります。1983年にソーシャルビジネスの提唱者であるムハマド・ユヌス博士が設立したバングラデシュのグラミン銀行が、初めて行ないました。グラミン銀行には、“貧しい者のための信用制度には、抵当も担保も必要ない”という理念があります。貧しい人々の自立の支援や、低所得層や難民へ小口融資を行なった結果、バングラデシュの貧困対策に多大なる貢献をし、ムハマド・ユヌス総裁はノーベル平和賞を受賞しています。
マイクロクレジットの対象は、一般的な貸付を受けられないほど貧しい人達です。貧困層の自立支援の意味合いが強く、新規事業の立上げや職業訓練の受講費、家族の生活環境を整える目的での利用が多く、女性への融資が多いのも特徴です。無償の援助ではなく、返済の義務を負うことにより、貧しい人々の自助努力を促し、貧困から脱出できるようにするというねらいもあります。
マイクロクレジットの理念を基に生まれた“マイクロファイナンス”は、融資のみならず貯蓄や保険なども取り扱っています。
また、ケニアの携帯電話会社サファリコムは、“M-PESA”というオンラインサービスを展開し、銀行の口座をもてない人も、携帯電話によってモバイル送金が可能になるサービスを行なっています。
町づくりや観光に対する取り組み
町づくりや観光に対する取り組みとしては、過疎化が進む地域で路線バスが廃止されたため交通手段がなく困っている高齢者のために、企業がバスの運行を行なった例があります。中には、町内の巡回バスを単なる人を運ぶ手段としてだけではなく、“コミュニケーションインフラ”として再構築を図った取り組みもあります。バスの利用者が激減し、バスを維持するコストが大きな負担となっていましたが、バスを高齢者世帯などに向けた商品の配達や、自給エネルギーの利用を検討するなど利便性が向上し、利用者増に成功しています。
ほかには、民間企業が経営を手放したスキー場を別の企業が再生し、再び地域社会が活性化した例もあります。
また、有隣農地を開墾してビジネスにつなげ、地域の課題を解決した事例もあります。耕作放棄地を再生して地域の高齢者をすることで、オーガニックの野菜を低コストで生産・販売し、成果を上げています。
自然や環境の保護
代表的な取り組みとしては、“バイオトイレカー”があります。バイオトイレとは、おがくずで排泄物を分解することで、水を使用せず下水処理も必要なく、どこにでも設置可能なトイレです。おがくずは、使用後に有機肥料として再利用できます。障がい者も使用できるよう改良も進み、イベント会場などへのレンタルも行なわれています。
また、化粧品業界では動物実験を廃止する取り組みを行なっている企業があります。化粧品の動物実験廃止の嘆願書や署名を提出するなど、すべての商品を“クルエルティフリー(動物実験をしていないことを指す)”として生産・販売が行なわれています。
子育てに関する取り組み
子育てママの悩みや情報を共有できるサイトを立ち上げ、子育てで悩む母親の孤立感を慧眼させる取り組みを行なったり、子育て中の母親の意見を取り入れた商品を開発したりする取り組みが行われています。
また、利益化が難しいとされる病児保育のサービスを提供し、ビジネスモデル化することで事業の拡大を成功させた企業もあります。低所得層の家庭も利用できるよう、寄付会員や企業の寄付などのサポートも実施しています。
障がい者の就労支援に関する取り組み
障がいを持っている人や働くことに対して不安を持っている若者に対し、仕事とのミスマッチを防ぐための仕組みづくりや引きこもりや不登校の子ども達の居場所づくりや就労支援に取り組む企業があります。
社会の幸せとその人自身の幸せをつなぎ、利他と利己両面の幸せの実現を目指し、さまざまな取り組みを展開し、事業の拡大に成功している企業があります。
ソーシャルビジネスの課題
以上のような取り組みが行われ、広がりを見せているソーシャルビジネスですが、ソーシャルビジネスを安定させ持続していくための課題として、利益が出しづらいということがあります。社会貢献度が高いソーシャルビジネスですが、社会貢献=利益が出しづらいと考える人が多く、資金の調達に苦労している企業が多くあります。
ソーシャルビジネスの認知度がまだまだ低いということも背景にあるので、社会全体で認知度を上げる取り組みや努力が求められています。
また、ソーシャルビジネスを行なう事業者が金融対する知識が不足していたり、事業計画に不備があったりして、資金調達が困難になっているということも考えられます。利益が出ないという偏見を払しょくするためには、社会貢献が目的であっても、しっかりとしたビジネスモデルを確立し、現実的で持続できる計画を立案することも必要です。そして、そのためにはマーケティングや経理などの専門知識を持った優秀な人材の確保も大切です。
まとめ
社会的課題の解決や社会貢献を目的としたソーシャルビジネスについて解説しました。ソーシャルビジネスは、今後さらに求められていくことが期待されています。利点や事例、課題についてご紹介しましたので、参考にしながらアイデアを出し、しっかりとして事業計画を作成し、ぜひ取り組みを進めていただけることを期待しています。